
「うつになってから頭が回らない」
「本や文章が読めなくなった」
「仕事の判断ができない」
「前はできていたことに時間がかかる」
うつ状態の方から、このような相談を受けることがあります。
うつ病やうつ状態では、気分の落ち込みだけでなく、集中力、記憶力、判断力、処理速度が低下することがあります。
患者さんの中には、
「このまま元に戻らないのではないか」
「自分の能力が落ちてしまったのではないか」
と不安になる方もいます。
結論から言うと、うつ状態によって低下した思考力は、回復とともに戻ってくることが多いです。
ただし、気分が少し良くなったあとも、集中力や判断力の回復には時間がかかることがあります。
うつ状態では「考える力」も落ちる
うつ病というと、気分の落ち込み、意欲低下、不眠、食欲低下などをイメージする方が多いかもしれません。
しかし実際には、思考力の低下もよくみられます。
たとえば、
・集中できない
・本や文章が頭に入らない
・人の話を聞いても理解しにくい
・仕事の段取りが組めない
・判断に時間がかかる
・物忘れが増えたように感じる
・言葉が出にくい
・頭に霧がかかったように感じる
このような症状が出ることがあります。
これは「怠けている」わけでも、「能力がなくなった」わけでもありません。
うつ状態によって、脳のエネルギーや注意力が落ちている状態と考えるとわかりやすいです。
なぜ頭が回らなくなるのか
うつ状態では、脳が常に疲れているような状態になります。
気分の落ち込み、不安、不眠、食欲低下、疲労感が続くと、脳は十分に働きにくくなります。
特に影響を受けやすいのは、
・注意を向ける力
・情報を一時的に覚えておく力
・複数のことを同時に処理する力
・判断する力
・物事を始める力
・切り替える力
です。
そのため、以前ならすぐできていた作業でも、時間がかかるようになります。
「メールを読むだけで疲れる」
「簡単な書類なのに進まない」
「買い物で何を買うか決められない」
こうしたことも、うつ状態では珍しくありません。
回復は「気分」より遅れることがあります
うつ状態から回復してくると、まず睡眠や食欲、気分の落ち込みが少しずつ改善してくることがあります。
しかし、思考力や集中力は、それより遅れて回復することがあります。
そのため、
「気分は少し良くなったのに、まだ頭が回らない」
「仕事に戻ったけれど、以前のように処理できない」
「治っていないのではないか」
と不安になる方もいます。
これは必ずしも異常なことではありません。
うつ状態で低下した思考力は、回復の途中でゆっくり戻ってくることがあります。
焦って以前と同じペースに戻そうとすると、疲労がたまり、再び調子を崩すこともあります。
回復期に大切なこと
思考力を戻すために大切なのは、いきなり脳を酷使しないことです。
回復期には、次のような工夫が役立ちます。
・睡眠リズムを整える
・朝の光を浴びる
・短時間の作業から始める
・予定を詰め込みすぎない
・メモやToDoリストを使う
・一度に複数のことをしない
・休憩をこまめに入れる
・重要な判断は調子の良い時間帯にする
・できたことを小さく確認する
「前はもっとできたのに」と比べすぎると、焦りや自己否定が強くなります。
回復期は、以前の100%をいきなり目指すのではなく、30%、50%、70%と少しずつ戻していくイメージが大切です。
復職は段階的に
うつ状態から仕事に戻るとき、気分が良くなっていても、思考力や処理速度が十分に戻っていないことがあります。
その状態で、いきなり以前と同じ仕事量に戻ると、強い疲労感が出ることがあります。
復職時には、
・最初は勤務時間を短くする
・業務量を少なめにする
・判断の多い仕事を急に増やさない
・残業を避ける
・疲れが翌日まで残っていないか確認する
・定期的に主治医と相談する
ことが大切です。
「職場に戻れた=完全に元通り」ではありません。
復職後もしばらくは、脳の体力を戻すリハビリ期間と考えるとよいでしょう。
それでも戻らないと感じる場合
うつ状態が改善しても、思考力や記憶力の低下が強く残る場合があります。
その場合は、
・うつ症状がまだ残っている
・睡眠が不安定
・不安が強い
・薬の副作用が影響している
・疲労やストレスが残っている
・甲状腺機能異常や貧血など身体疾患がある
・高齢の方では認知症や軽度認知障害との鑑別が必要
などを考えることがあります。
特に、高齢の方で急に物忘れが目立つ、時間や場所がわからなくなる、生活に大きな支障が出ている場合は、うつ状態だけでなく認知症などの評価が必要になることがあります。
「戻らない」と決めつけないこと
うつ状態のときは、物事を悲観的に考えやすくなります。
そのため、思考力が落ちていると、
「もう元には戻らない」
「自分はだめになった」
「仕事はもうできない」
と感じやすくなります。
しかし、それはうつ状態の見方であることも多いです。
治療と休養によって気分が回復し、睡眠が整い、少しずつ活動量が戻ることで、思考力も回復していく方は多くいます。
大切なのは、焦って元に戻そうとすることではなく、回復の段階に合わせて少しずつ負荷を増やすことです。
まとめ
うつ状態では、気分の落ち込みだけでなく、集中力、記憶力、判断力、処理速度が低下することがあります。
これは、怠けや能力低下ではなく、うつ状態によって脳が十分に働きにくくなっている状態です。
多くの場合、うつ状態の回復とともに、思考力も少しずつ戻っていきます。
ただし、気分の回復よりも思考力の回復が遅れることがあります。
回復期には、
・睡眠を整える
・無理に詰め込まない
・短時間の作業から始める
・メモを使う
・復職は段階的に進める
・以前の自分と比べすぎない
ことが大切です。
思考力が戻らないと感じる場合や、物忘れが強い場合は、うつ症状の残り、睡眠、薬の影響、身体疾患、認知症などを含めて確認する必要があります。
戸畑・北九州で、うつ状態による集中力低下、思考力低下、仕事への復帰、もの忘れが気になる方は、精神科・心療内科・もの忘れ外来で相談できる場合があります。症状が長引く場合や生活に支障が出ている場合は、早めにご相談ください。